12

Timberlandに別注したモカシンの話

NAUTICAがカスタムオーダーしたTimberlandの“3アイ クラシックラグ”が店頭に並んでいます。この“3アイ クラシックラグ” については、バーガンディが生産終了になる?とか、生産背景が変わる?など、噂の絶えないモデルでもあります。そこで、Timberland伊勢丹新宿PC4店の平山充生さんをゲストに迎え、事の真偽を探るとともに、NAUTICAのカスタムオーダーに迫ってみました。

長谷川昭雄

ファッションディレクター、スタイリスト。雑誌『MONOCLE』や『POPEYE』のファッションディレクターを歴任後、フイナムとともにウェブメディア『AH.H』を立ち上げる。2020年〈NAUTICA〉のクリエイションディレクターに就任。

平山充生

Timberland銀座店、青山店などの店長を歴任後、現在は伊勢丹新宿PC4店の店長を務める。Timberland在籍17年。豊富な経験と商品知識から生まれる接客対応が評判を呼び、社内外で一目を置かれる存在。趣味はアウトドアと音楽鑑賞。

〈NAUTICA〉がカスタムオーダーした3アイ クラシックラグ(以下、3アイレット)が完成しました。そこで今回のMAGAZINEでは、〈Timberland〉の平山さんをお招きしています。

よろしくお願いいたします。

この3アイレットなんですが、当たり前のように存在していることもあり、その歴史について深く考えたことがありませんでした。リリースされたのはいつ頃なんでしょうか?

1978年にボートシューズとして発売されたモデルですね。

一般的なボートシューズはソールがフラットなイメージがありますが、3アイレットにはゴツいアウトソールが装着されていますね。

そうですね。元々、フラットソールを装着したボートシューズとして、2アイ ボートシューズというモデルがあります。そのアレンジとしてラグソールを装着した3アイレットが誕生しました。

あ、ラグというのは、ソールのことなんですね。

そうなんです。

どういう意味なんですか?

“LUG”で 調べてみると、 “突起”という意味がありますね。

ソールのブロック、ひとつひとつを“ラグ”と呼んでいます。ラグソールは、体重のかかる方向に大きな溝を作ることで、滑りにくい構造になっています。

昔の方がソールにボリュームがあったんじゃないか?という話を友人とするんですけど、その辺りはどうなんですか?

基本的な製法やデザインは変わっていないのですが、多少のマイナーチェンジはあったのかもしれませんね。

今日、資料としてこんな本を持ってきました。1995年発刊の『RIKACO’S Selection』という書籍です。RIKACOさんの考えるスタンダードアイテムを編集した一冊で、ここに3アイレットが掲載されています。それを見ると、アウトソールのゴツさが今より際立っている気がするんですよね。

本当だね。高校生の頃、友達が履いているのを見て、ずいぶん底が分厚い靴なんだな、と感じた記憶はあるんだよね。

〈HERMES〉のコートから〈STUSSY〉のTシャツまで

カバーするRIKACOさんのワードローブ集。〈Timberland〉

からは、3アイレットと6インチブーツがエントリー。

キャプションに“アンバーからワインまで、微妙な色使いで恐ろしいほど種類がある”と書いてありますね。当時はそんなにカラバリがあったんですかね?

詳しいことは分からないのですが、90年代はそうだったのかもしれませんね。

“恐ろしいほど”とありますからね。一体どんな色があったんでしょうね。

現在3アイレットは、バーガンディとブラウンの2色展開となっていますが、バーガンディが生産終了になる、という噂を聞きました。これは本当ですか?

いえ、バーガンディは今後も継続して販売する予定です。

レディースは元々ブラウンだけの展開なんですよね。

よくご存知で。そうですね。バーガンディはメンズのみの展開です。

バーガンディとブラウン、色味の似た2色をラインナップするあたりも気になるところです。

ブラックがないというのは珍しいですよね。

よくお客様からも言われます。「ブラックはないんですか?」と。

〈ALDEN〉でもバーガンディの靴がありますよね。これは何か意味があるんですかね?

アメリカでブラウンシューズというと、このカラーイメージになるんですかね。たしかなことは分からないのですが……。

プレッピーの着こなしに、 “ナンタケットレッド”と呼ばれるレンガ色のパンツを履く、というのがあるんですよね。そういう合わせを意識したカラーリングなんですかね。

調べてみると、マサチューセッツ州にナンタケット島というリゾート地があります。その島を発祥とする“ナンタケットレッド” というカラーがある、と。

うんうん。

そういえば、〈ALDEN〉も〈Timberland〉もニューイングランド発祥のメーカーです。それも何か関係しているのかもしれませんね。

あ、〈Timberland〉もニューイングランドのメーカーなんですね。

そうです。ニューイングランドのニューハンプシャー州にあるアビントン・シュー・カンパニーという靴屋さんから始まりました。

靴屋さんのオリジナルブランドということですか?

はい。お店で作った“Timberland”という6インチブーツがヒットして、そのまま社名になりました。

それは現在の6インチブーツと同じものですか?

そうです。あの6インチブーツは、林業用ブーツとして1973年に登場しました。

へーそんな昔からあるんですね。

3アイレットにくわえ、6インチブーツまで作るなんて、ずいぶんイケてる靴屋さんですね。

左:フィット性を高めるのは、踵から続くシューレース。

これを抜いてしまうと、えらいことになるので要注意。

右:極太のナイロン糸を一回で縫い上げるUチップは、

職人さんのクラフトマンシップが息づくディテール。

長谷川さんにとって、この3アイレットはどんなシューズですか?

自分で履いたことはなかったんだけど、ずっと興味はあったんだよね。イニシャルを入れるサービスを利用させてもらう機会があって、それから気に入って履くようになったんだ。

お気に入りのポイントはどういったところですか?

足入れが楽というのが好きかな。紐を結ばなくても足が入るからさ。あと意外となんでも合うんだよね。スウェットパンツでもなんとなく合う。そういう革靴ってないからさ。

さっと履ける上、フィットが良いですよね。それは、やっぱりこの分厚いヒールが関係しているんですかね?

そうですね。最初はヒールにカープがないストレートな状態なんですが、履き続けるうちに足に馴染んでヒールが丸みを帯びてきます。それにより、踵がホールドされる構造になっています。

たしかに新品はヒールが真っ直ぐ立っていますね。

さらにサイドと踵が1本のシューレースで繋がっている360 °レーシングシステムを採用しています。紐を縛ることで、両サイドのレースがギュッと締まり、さらにフィット感が高まる仕組みです。

このサイドのシューレース はデザインだと思っていました。ちゃんと機能があるんですね。

飾りだけのボートシューズもありますよね。

あとUチップという作りが関係しているのかもしれないですけど、甲も足型に馴染んでいきますよね。

サイドのレザーはソールから包まれるように設計されているので、馴染みが早いのかもしれません。

この手縫いのUチップは、シューズの顔立ちを印象付ける重要なディテールと言えます。

そうですね。ハンドソーンならではの味わいがありますよね。

これって難しいみたいですね。某メーカーでは職人の親父さんが亡くなって、息子さんが後を継いだときに、Uチップが一回で縫えず、一旦糸を切ってその続きを縫った、みたいな話を聞いたことがあります。

半円を描いているから、縫い上げるのが難しいんですかね。

3アイレットはUチップとヒールが手縫い、それ以外は機械縫いと、2つの手法が使われています。

手間がかかっているわりに、値段が安いですよね。もっと高くてもいいような気がしますけど。

たしかに。3万円オーバーでもアリな気がしますね。

アメリカ製ではないのに、しっかりアメリカ物らしい雰囲気を残している商品ってそんなにないと思うんですよね。

ドミニカ工場の職人さんたち。ライン毎に異なる

カラーのユニフォームを着用している様子。よく

見てみると、そのデザインがそれぞれ違っていて面白い。

今回のカスタムオーダーを製造したドミニカの直営工場の画像を提供してもらいました。

結構派手な制服ですね。

なんか良いですね。この雰囲気。

これはイエローヌバックかな。6インチブーツもここで作っているんですか?

そうです。6インチブーツもここで製造しています。

あれだけの流通量のある靴を生産する職人さんが常駐していたということは、すごい規模の工場なんでしょうね。

そうですよね。

そんなドミニカ工場での3アイレットの生産が終了する?という噂がありますが。

そうですね。今後はベトナム生産になります。

噂は本当だったんですね。

生産国が変わっても、この雰囲気は変わらずキープ出来るんでしょうか?

基本的な製法は全て同じです。各パーツまで厳しい基準をクリアした上で、極めて差が出ないように作ります。

このドミニカ工場は今後どうなるんですか?

ブーツの生産はそのまま続けていく方向だとは聞いています。

それは良かったです。

もう切り替えが始まっているんですか?

これから日本に届く商品からベトナム製で、ドミニカ製は現在残っている在庫のみになります。

今回カスタムオーダーを制作するにあたり、〈Timberland〉の「DYO」を利用しました(注:現在はサービスを一時停止中)。いわゆるカラーオーダーサービスなんですが、奇しくもドミニカ製としては最後のカラーオーダーとなりました。

ドミニカ工場での3アイレットの生産が終了する、という話は聞いていたんだけど、まさか本当だったとはね。

貴重なドミニカ製の別注オーダーにフォーカスしてみます。まずはバーガンディのオイルドレザーです。

アッパーはコレ、ステッチはコレ、ライニングはコレと選んでいったら、インラインのバーガンディに近づいていったんだ。潜在的にこのカラーが頭にあったのかもしれないね。やっぱり俺は、このバーガンディが好きだな。

えも言われぬ説得力がありますよね。なお今回のカスタムオーダーではナンバリング刺繍が入っています。

うん。数字を入れられることを初めて知ったんだよね。

そう言われると、名入れサービスで数字というのは珍しいですね。

数字を入れる人ってあんまりいなそうですよね。

はい。イニシャルを入れる方が多いですね。

不思議と23が入るだけで、グッと引き立ちます。

そうですね。23はマジックナンバーですね。

23が何を意味をするか。ここで説明するのも無粋なので、そこは割愛させていただきます。

続いては、6インチブーツと同じ色味のウィートカラーのヌバックです。

やっぱり〈Timberland〉といったら、この色のイメージがあるよね。

インラインにもあるような佇まいですよね。

このマットな感じと色のトーンが綺麗だなって思ったんだ。前に「DYO」で黒のヌバックを作ってもらったことがあって、それはそれで好きなんだけど、このウィートカラーと比べると、なんか物足りない感じが俺の中にはあって。

そういえば、黒で作る案もありましたよね。

このウィートカラーは、あの6インチブーツと同じマテリアルですか?

ほぼ同じ色味ですが、若干違いますね。

そうですよね。6インチブーツの方が若干キメが細かい気がします。

ちなみに、6インチブーツは、たまたま工房にあった革がウィートカラーのヌバックだったから、あの色になったという逸話があります。

それがブランドを象徴するカラーになるとは思ってもなかったでしょうね。

本当だよね。

最後はパープルのヌバックです。

レザーのラインナップにパープルがあって、これだけ少し派手な色だったんだよね。で、思い切って、これで行ってみようってなったんだ。

そうでしたね。

他と比べると派手さはありますが、見慣れた形だからか、そこまで異質なものには感じない気がします。

色数が少ないのも、関係しているのかもしれませんね。

夏に良いんじゃないかな。ショーツを合わせたりして。

そうですね。ネイビーのパンツと合わせたりしてみても良いかもしれません。

ドミニカ製が最後だと聞いて、なんてことをしてしまったんだ!と少し思いましたけどね。

一同笑

うん。最後なのにね(笑)。