11

パックTEEと無染色TEEの話

NAUTICAでパックTを作ろう。という話はちょっと前から耳にしていましたが、いよいよ完成と相成りました。そこで、今回のMAGAZINEでは、NAUTICAのデザインチームとディレクターの長谷川昭雄さんに、パック入りTシャツと同時リリースするソックス、さらに無染色アイテムについて解説してもらいました。最後にひとつ聞き慣れないものがありましたが、実はある部分で共通したテーマがあって……というのが、今回の話です。

長谷川昭雄

ファッションディレクター、スタイリスト。雑誌『MONOCLE』や『POPEYE』のファッションディレクターを歴任後、フイナムとともにウェブメディア『AH.H』を立ち上げる。2020年〈NAUTICA〉のクリエイションディレクターに就任。

ついに〈NAUTICA〉のパックTが完成しましたね。

うん。ずいぶん前から話していたから、ようやく出来上がったって感じがするよ。

長谷川さんの考えるパックTの魅力とは何でしょうか?

パックに入っていることかな(笑)。それでしかないよね。パックTの包装を解いて、バラで売っていたりすることもあるけど、あれには何の魅力も感じなかったし。

いわゆるボディーメーカーの作るパックTは肌着としての扱いですよね。

インナーにしか使えないよね。でもアメリカに行くと、パッケージとディスプレイにやられて、つい買っちゃうんだよね。

その点、このパックTはヘビーウェイトな生地を使ったしっかりした作りで、アウターとして使えるTシャツと言えます。

そうだね。ポパイをやっていたとき、夏の象徴として白いTシャツを扱いたいと思って、色々なTシャツを試したことがあったんだけど、〈CAMBER〉が一番良いという結論に達したんだよね。その頃から、地厚なTシャツしか着たくない、というのが明確にあってさ。たから、今回のTシャツを作るときも地厚な生地で作りたいと思ったんだ。

たしかに生地が地厚ですね。

生地はオリジナルで作った7オンスの天竺を使用しています。オープンエンド糸を編み上げて、アメリカンコットンのようなガサッとした風合いを表現しました。

オープンエンド糸ってよく聞くんですけど、どういうものなんですか?

空気の力を使って糸を撚る紡績技術です。繊維間に空間があるので、ラフな表情に仕上がるんですよ。

このガサッとした感じが良いですよね。ファッションブランドが作るTシャツって、良いコットンを使って、上品で大人っぽい感じを目指そうとして、生地がツルッとしていたりすることがあるじゃないですか。俺はああいうのがあまり好きじゃなくて。

生地の風合いについての視点が同じだったので、安心しました。

あと洗ったときに、凹凸が出てくる方が着やすいですよね。

着やすい、というのは、見た目の話ですか?

うん。男性の肌はガサガサしているじゃん。だから、同じような質感の服の方が馴染むところはあるよね。

ツルッとした綺麗な生地感は男性の肌には似合わない、と。

場合によっては、着る人の魅力を損ねてしまうことがあるよね。それぐらい生地のテクスチャーと肌のマッチングは大事だと思う。

ネックはバインダーネック(注:身頃を包み込むようにネックリブが縫製されている仕様)になっています。パックTでこの仕様は珍しいですね。

普通はロック付け衿(注:ネックリブと身頃がロックミシンで縫い合わされている仕様)が主流ですね。

ネックは見た目の印象を決定づける、意外と重要なパーツですね。

そうですね。バインダーネックは比較的カジュアルなアイテムによく使われています。

上品な印象というより、野暮ったさがありますよね。それがいいんですけど。

ミリタリー物のTシャツなど、タフな作りのTシャツは二本針のバインダーネックが多いですね。またロック付け衿は縫い合わせ部分が立ってしまいますが、バインダーネックは肌の接触面が少ないので肌触りに優れている、という利点もあります。

へー。

この仕様は長谷川さんからの提案だったんですか?

そうだったかも。Tシャツを作るときは、大抵バインダーネック。(加藤農園の)加藤さんともそうだし、〈nanamica〉でも。バインダーネックが好きなんだ。

作りこそ大きいですが、ネックはしっかりと詰まっていますね。

全体のサイズ感からすると、ネックの寸法はやや詰まり気味にしています。

普通のTシャツで大きいサイズを選ぶと、首元の空きが気になることがあるよね。それが似合ってれば良いんだけど、似合っている人ってなかなかいない気がする。

その点、バインダーネックは比較的どんな人にも似合うような気がしますが。

うん。似合いやすいんじゃないかな。ただシャツの下に着るときは、首元が詰まっていない方がスッキリして良いけどね。そういう意味では、やっぱりアウター用のTシャツなんだろうね。

デザインポイントとして肩の後ろにロゴが入っていますね。

色々シミュレーションした結果、ここに落ち着いたんだ。以前『AH.H』でTシャツを作ったときも、肩にデザインを入れたことがあったんだけど、訳あって生産できなくてさ。だからここでやりたいなと思って。

サイズ展開に注意が必要です。XL相当のMサイズとXXL相当のLサイズ、さらにレディースの3サイズ展開です。

生地が頑丈で、デカイというのが、このパックTの特徴なんだ。パックTというフォーマットは好きだけど、中身のTシャツは小さくて使えないからさ。これは生地の厚さもサイズ感も理想的で、きちんと使えるパックTだよね。

Mサイズなのにデカイ、というのはいいですね。インポート屋さんで買ったアメリカ製Tシャツの思い出が蘇ります。

うんうん。

サイズ設計に関して、忖度していない着丈が気に入っています。いわゆるビッグTシャツと言われるものは、身幅があるわりに着丈が短いんですよね。

このTシャツは着丈を調整せずに、そのまんま2XL、3XLの長さになっていると?

そうですね。

デザイナーの作る計算されたビッグシルエットって違和感がありますよね。やっぱり俺はアメリカ物の計算されていない感じが好きですね。

長谷川さんが懸念するカマ(注:アームホールの下端)も、しっかり下がっていますね。

〈NAUTICA〉のデザインチームはカマを下げることに抵抗がないと思うんだけど、そこに抵抗を感じるパタンナーやデザイナーが多いんだよね。アメリカの大きい服に慣れている人は、ちゃんと下げてくれるんだけど。

そんなに下げるんですか?とよく言われます(笑)。

分かります。そんなに下げるの?って言われると、悪いことしているような気になりますよね。

一同笑

レディースのサイズ感はどうなんでしょう?

レディースはジャストサイズの作りにしている。トップタイトなバランスは、女性の方が実践しやすいからね。あと大きいサイズが似合う人もいるけど、似合わない人もいるからね。

レディースのTシャツで、ここまでヘビーウェイトなものは珍しいのかもしれません。

地厚な生地だから透ける心配もないし、使いやすいかもね。

そして気になるのは値段です。このパックTはいくらするんですか?

2枚入りで3,600円(税抜)です。

そんな安くしたんですっけ!? すごいよね。

外で遊んで汗をかいたら着替える、みたいにラフに使って頂けるよう、上代の設定は頑張りました。

ストリートファッションの起源にワークウェアがあるように、安くて使えるものであるということは大事だよね。

同じパックシリーズとして、タンクトップとチューブソックスも発売するそうですね。

はい。ただタンクトップは生産の都合で、販売が少し遅れてまして……。

そうなんですね。では今回はチューブソックスについて話を聞かせてください。

うん。ソックスは裏パイルで厚手のものが好きだから、そういうイメージで作ってもらったんだ。

なるほど。しっかりとした厚みがありますね。

昔の本を読むと、スポーツをするときにソックスを二枚重ねに履いていたりするんだよね。こういう厚手のを二枚。それは当時のスニーカーにクッション性がなかったからだと思うんだけど。

ソックスが緩衝材になっていたんですね。

スパイク・リーがソックスを二枚重ねているのは、その名残かもしれないよね。でも今のスニーカーはクッション性があるから、もっと薄い素材のソックスで十分なんだよね。だから、最近はこういう厚手のソックスを見かけなくなった気がする。

そうですね。90年代は普通にありましたけど、今はあんまりないですね。

全体的に厚みがありますが、特にフット部分が厚くなっていますね。

はい。よくあるソックスは、足の裏面がパイルで、甲の面は裏毛になっているんですが、こちらは両面ともパイルになっているので、生地のキックバックが強く、伸びにくいんですね。

リブを裏返すとネームが出てくる、この仕掛けも良いですね。

ネームがプリントで入っているソックスってあるじゃん。ああいうのって洗っていくうちにプリントが掠れていくんだよね。俺はソックスが好きだし、撮影でもよく使うから、何百足も持っているんだけど、プリントが消えたら、もう何が何だか分からなくなっちゃうんだよね。だからソックスって、どこのメーカーのものであるか、はっきりと分かった方が良いと思っててさ。

なるほど。ジャガード織りなので、ロゴが消えることもないですし、洗濯後のパートナー探しも簡単そうですね。

うん。チューブソックスだから左右もないしね。

ちなみに、このソックスはいくらするんですか?

3足セットで1,950円(税抜)です。

このクオリティで、その値段は安いですね。

そうだよね。

あともう一つ。このパックシリーズのストロングポイントとしてパッケージがあります。アイテムはどれもファスナー付きバッグに封入されていますね。

そう。せっかくだったら二次利用できるのが良いなと思って、パッケージのデザインや素材については何度も話し合ったんだ。ものさえ良ければ、他に使おうというモチベーションになるだろうし。

そういえば、以前のMAGAZINEで、製品を封入する袋についても言及していましたね。

今後は製品袋も二次利用できるものにしていきたいと思ってるよ。それは環境保護という面もあるけど、服をビニールの製品袋から取り出すのってめんどくさいし、ゴミが増えてすごく嫌だなっていつも思ってる。薄紙とかも。

おかげさまで、良い製品袋が出来上がりそうです。期待していてください。

同じくエコという話で、もうひとつ気になるものがありました。それが無染色のTシャツです。一般的に染色には大量の水を必要としますが、これは染色をしないで、素材本来の色合いをストレートに表現したアイテムです。

元々エコという入り口ではなく、デザインチームがヘビーオンスのTシャツサンプルとして、こういうのを作ってくれたんだよね。その感じが良いなと思って。

ということは、生機(注:染加工する前の布生地)でアイテムを作って、その仕上がりをチェックすることはよくあることなんですか?

生地から開発するときはよくありますね。

へー。

生機でサンプルを作った理由のひとつが、加工手順の違いです。通常は染色後にタンブラーをかけることが多いんですが、この生地は生機の段階でタンブラーをかけてみたんです。そうすることでガシッとした風合いになるんですよ。

そうなんですね。

この手順で作られているアメリカのTシャツがあるらしく、一度試してみたかったんですよね。

手順を変えることで、やはり違いを感じましたか?

はい。目がとても詰まりました。詰まり過ぎてて、少し不安になりました。大丈夫かな?って。

そうして出来上がったのが、ガシガシに目の詰まった12オンスボディのカットソーです。長谷川さんの目にはどのように映りましたか?

すごく良いじゃんって思ったよ。

さらに無染色という見た目も気に入ったと?

うん。ちょうどそのぐらいの頃に俺が環境保護に目覚めたところがあって、無染色は良いかもって思ったんだ。

環境に目を向けるきっかけは何だったんでしょう?

俺はシンプルなデザインが好きだから、服を作るときもデザイン云々というより、どういうフォルムで、どういう生地で、というやり取りになるんだよね。そんななか、どうものづくりを進化させていけば良いか?を考えたときに、最近よく言われている環境保護というのは楽しいなって思ったんだよね。

楽しいというのは視点として、ということですか?

うん。最近、服そのものより、その服がどのように作られているかということに興味が湧いていて。だから、さっきの生地の話も面白いし、そういう視点でものを買う方が楽しいなと思ったんだよね。その延長に環境保護というのもある気がするし。

たしかに生産背景を考慮すれば、もの選びの考え方も変わってきますよね。この無染色についても、染色に水を使用することは、考えれば分かることですが、恥ずかしい話これまで目を向けてこなかった気がします。

環境に配慮したもの作りをしているのに、それが見た目で分からないのはつまらないと思う。その点、無染色というのは分かりやすいし、着ている本人も理解できるから、良いなって思ったんだよね。

実際、見た目も良いですね。ネップみたいな点が所々にあって。

これは“カス残し”といって、綿の茎や葉の残りなんですよ。

単色のベージュより表情がある分、着やすいんじゃないかな。

今後も無染色アイテムは作っていく予定ですか?

うん。無染色もそうだし、少しづつエコへの取り組みをやっていきたいね。

はい。まずは出来ることから実践して、いつかは当たり前のようにしていきたいですね。