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古書店magnifの中武さんと読み解く、 NAUTICAと80~90年代のマリンカルチャー

新年一発目のMAGAZINEは、NAUTICAとマリンファッションの歴史がテーマです。神保町の古書店magnifの中武康法さんをゲストに迎え、過去の雑誌や書籍から日米のマリンカルチャーを読み解いてみました。

長谷川昭雄

ファッションディレクター、スタイリスト。雑誌『MONOCLE』や『POPEYE』のファッションディレクターを歴任後、フイナムとともにウェブメディア『AH.H』を立ち上げる。2020年、〈NAUTICA〉のクリエイションディレクターに就任。

中武康法

古書店勤務を経て、独立。2009年、神保町にヴィンテージマガジンを中心とした古書店、magnifをオープン。現在はアパレルブランドや百貨店でのイベント協力など、その活動の幅はさらに広がりを見せている。

GQ(1993年3月号)
¥1,000 +tax / magnif

まずは〈NAUTICA〉の広告ページです。 90年代の『GQ』によく掲載されていました。

これは何年のものですか?

1993年ですね。4Pにわたって広告ページが掲載されています。

4Pのタイアップではなく広告ですか。ずいぶん景気がいいですね。

90年代は、わりとこの体裁が多いですね。

いい雑誌に広告を打つことにステータスがあった時代なんでしょうね。

GQ(1993年3月号)
¥1,000 +tax / magnif

“OFFICIAL SPORTSWEAR OF US SAILING TEAM”って書いてますね。

いくつかヨット団体があったのかもしれないですね。

当時〈Polo Ralph Lauren〉がアメリカズカップ(注 :国別対抗で争われる ヨットレースの最高峰)の公式ユニフォームを提供したという話もありましたね。

アメリカズカップは、ロンドン万博の記念行事として始まり、以降アメリカがずっと勝ち続けていたんですよね。それが1983年に初めてアメリカが負けてしまい、大ブーイングが起きたそうです。

へー。

そして、1987年に再びアメリカが優勝カップを奪還するんですよ。それからアメリカでヨット熱が高まっていきます。

GANT AT AMERICA’S CUP(1992年)
参考商品 / magnif

: これは〈GANT〉が1992年に発行した冊子です。シャツメーカーがヨットカルチャーに乗り込んでくるぐらいなので、よっぽどアメリカでヨットが盛り上がっていたんでしょうね。

洋服の色合いもいいですね。

そうだね。〈ACG〉っぽい。

同じ1992年に(フランシス・)コッポラが製作総指揮を務めた『ウインズ』という映画が公開されたんですが、それがまさにアメリカズカップで負けた選手たちのストーリーなんですよね。

面白そうですね。観てみます。

GQ(1996年5月号)
¥1,000 +tax / magnif

1996年の『GQ』に掲載されている〈NAUTICA〉の広告です。

これ、どうやって撮ったんだろう? 競技中のスポーツ写真なのかな。

1996年というと、まだフィルムカメラの時代ですよね。

そうだね。すごいな。

アイビーリーガーのバカンスみたいヴィジュアルから、一気にスポーツライクになってきてますね。

1996年というと、〈POLO SPORTS〉を筆頭に、各社一斉にスポーツカテゴリーを打ち出していた時期ですね。その影響でアクティブなヴィジュアルが好まれていたんですかね?

そうかもしれないね。

GQ(1995年12月号)
参考商品 / magnif

〈NAUTICA〉の冬の広告もありました。1995年の『GQ』です。

これも躍動感のあるビジュアルですね。

きっとスポーツ写真なんだろうね。

夏はマリンスポーツ、冬はウィンタースポーツという上流階級の生活様式を、まんま映し出していますね。

そうだね。ストリートではないよね。

この頃の広告ヴィジュアルにおける共通項みたいなものはありますか?

複数人のモデルがアクティビティに興じている、という設定はよく見ますね。

最初の『GQ』(1993年3月号)が、まさにそうですね。

〈NAUTICA〉の場合、ヨットのチームプレー精神みたいな意味も込められていたんだと思います。

なるほど。それもプレッピーっぽいですね。

一方で〈Calvin Klein〉のように、白黒のポートレイトみたいなのも多くありますね。

〈Calvin Klein〉や〈DKNY〉は、都会的なモダンなイメージだよね。〈NAUTICA〉はもう少し分かりやすく、プレッピー的なライフスタイルを打ち出していたんだろうね。

MEN’S CLUB(1965年7月号)
¥5,000+tax / magnif

日本におけるマリンカルチャーとして『MEN’S CLUB』を挙げてみます。これは、リゾートルックを打ち出した号です。

これは何年ですか?

1965年です。これが最初ではないですが、マリンファッションの特集としてはかなり古い部類になります。

“YACHT PARKA”と書いてありますね。日本のマリンファッションにおけるパーカーの存在はこの頃に生まれたのかもしれないですね。

その説明には“フード付きジャケット”とあります。パーカーという単語はあったものの、まだ一般には浸透していなかったんでしょうね。

“パルカ”って書いてますからね。ヨットパルカ(笑)。

日本では謎アイテムだったんでしょうね。

ALL RIGHT(1983年12月号)
参考商品 / magnif

続いて、1983年の『ALL RIGHT』という雑誌です。

『POPEYE』を辞めた人たちが作ったという雑誌でしたっけ?

はい。粕谷誠一郎さんや後藤健夫さんなど、『POPEYE』の黎明期を支えた若手編集者により制作された雑誌です。この号ではケネディの特集を組んでいます。

フォーカスが『POPEYE』っぽいですね。

ケネディは、それまでの大統領のエスタブリッシュなイメージとの差別化から、人前ではその目印になるような着こなしを避けていたという逸話があります。しかし、別荘のあるケープコッドで過ごすプライベートでは、ボタンダウンを着ているんですよね。

まさに、この写真ですね。

はい。アイビーのステータスとして、ケープコッドのような避暑地に別荘とヨットを所有するというのがあるらしいです。アメリカのマリンルックというと、夏のバカンスでの装いというイメージがありますね。

POPEYE(1991年9月18日号)
参考商品 / magnif

ケープコッドのあるマサチューセッツは、ニューイングランド地方と呼ばれていますが、『POPEYE』では、1991年に“ニューイングランド・コンフォート”という特集を組んでいます。本当はあの本があれば良かったんですが……。

ああ。俺と同い年ぐらいの人は皆、あの号の話をしますね。

そんな有名な号なんですか。

蔡さん(注:『フイナム』を運営するライノの代表取締役)が作った号みたいだよ。犬を連れた男の子が表紙になっている。

(インスタを見せて)これですよね。

そうそう。〈Red Wing〉のアイリッシュセッターにルーズソックスで、パンツを裾にブッ込むスタイル。それにアランニットを着せたりしててさ。スタイリングがいいんだよね。

ニューイングランドは、イギリスからの入植があった最古の地で、つまりはアイビーの故郷みたいな存在なのだと思います。

そういえば、〈ALDEN〉の靴にも“NEW ENGLAND”と入っていますよね。

たしか“NEW ENGLAND”というコレクションもあった気がする。それもイギリスへの憧れなのかもね。

MEN’S CLUB(1982年6月号)
¥1,500 / magnif

『ALL RIGHT』の前年には『MEN’S CLUB』も、ケープコッドの取材をしています。

聖地巡礼ですね。

くろすとしゆきさん(注:文筆家。〈VAN〉の企画本部長としてアイビーブームを牽引)が特集の序文を書いています。〈VAN〉では、1967年に“ケープコッド・スピリット”というキャンペーンを展開していますが、くろすさんがケープコッドを訪れたのは、その後になるみたいです。

“ケープコッドは、イメージの世界に留めておきたかった”と書いていますね。

へー想像とは違ったのかな。

誌面では“CAPE COD STORY”と題して、7Pにわたって取材を行っています。

『POPEYE』のニューイングランド特集も現地取材のページがありましたよね?

ありましたね。ファッション写真は頭に残っているんですけど、取材ページをあんまり覚えてなくて。改めて読み込みたいんですよね。

ボートハウスの奇跡 一枚のトレーナーに込められた夢(下山好誼 著)
参考商品 / magnif

『All Right』や『MEN’S CLUB』は、マリンファッションの起源を丁寧に追っていますが、一方でこんなマリンファッションもありました。

〈Boat House〉ですか?

ブームになったのは80年代の初頭です。すごい行列ができて、社会現象になったそうです。

いわゆるグラフィックデザインですね。そういう意味では裏原宿に近いのかもしれない。

なるほど。

マリンカルチャーのひとつの参考書として楽しめる内容です。

’80sガールズファッションブック(竹村真奈 編著)
2,000円+TAX(magnif)*新刊本

マリンカルチャーの文脈ではないと思いますが、マリンをモチーフにして、一世を風靡した〈SAILORS〉というブランドもありました。

すごい。この本はなんですか?

80年代のガールズファッションをマニアックに編集した書籍です。『Girlie』という雑誌を作っていた竹村真奈さんという方が制作しています。

おニャン子が着てましたよね。懐かしい。

時を同じくして、アメリカのケープコッドの流れを汲んだマリンスタイルと、ポップでキャッチーなマリンスタイルが存在していたというのは興味深いですね。

たぶんマリンの流れがあったのかもしれないね。ウォーターフロントの開発も始まったりして、海に対する期待値が高まったんじゃないかな。

海がトレンディな時代ですね。

そこに、(エットーレ・)ソットサスのメンフィスグループの色彩感覚が世界に強く影響を与えていたんじゃないのかな。詳しくないから俺の主観でしかないけど。だって子供だった俺ですら、そういう色の服を身につけたいって思っていたくらいだから。

anan(1983年3月4日号)
参考商品 / magnif

そういうイメージだと、これもそうですね。1983年の『anan』。パステルカラー特集です。

おお、すごいですね。

この頃の『anan』は、神号を連発しています。

カラートーンは違いますが、この色彩感覚は、先述の〈GANT〉のような90年代のマリンルックにも通づる部分がありますね。

この配色は新鮮だね。今の時代に改めていいんじゃないかなと思った。もう長いことシックな色ばかり着てきているし、コロナのせいで抑圧されてるからか、ここ数日、突然派手な色が気になって、着るようになってきたんだよね。

たしかに。こういう色合いは暗いムードを明るくしてくれますね。

というわけで、ファッションとマリンカルチャーの歴史をザザッと辿ってみました。今回ご紹介した雑誌や書籍の一部は、magnifにてお取り扱いがございますので、ご興味のある方は店舗までお問い合わせくださいませ。

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